認知症と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。
日常会話ができない、徘徊してしまう、すぐ忘れてしまう…などといったイメージを持つ方も少なくないと思います。
でもそれは、認知症が脳の病気であることをよく理解できていなかったり、できないことばかりに着目してしまっているが故のイメージかもしれません。
認知症を正しく理解しケアしていくためには、認知症ケアの理念を知っておくことが大切です。
今回は、認知症ケアの理念とはどういったものなのか、また認知症の人とどう向き合うことが必要なのかについて、解説していきます。
認知症ケアの理念とは
認知症ケアの理念は大きく3つあります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
残された能力や意欲に着目し、生活を支援していく
認知症は脳の病気です。
その結果、脳の機能に障害をきたし、それまで当たり前にできていたことができなくなったり、常識だと思っているようなことが理解できなくなったりします。
さらに、認知症の人は、自分が認知症であるという認識がなく、また他者の世話になっている状態であるといったことをうまく理解できません。
そのため、行動の間違いを指摘したり、できなくなったことをまたできるようにと訓練しようとしても、その理由を理解できず、何か無理強いされた・何か嫌なことをされたといった感情だけが残ってしまい、本人と周りとの「思いのずれ」が生じてしまうのです。
認知症の人への介護サービスでは、このような状況を理解しつつ、できないことに着目するのではなく、できること・残っている能力に着目して、本人が必要以上に不安や不便を感じることのないよう、生活を支援していくことが大切ですね。
パーソン・センタード・ケア
パーソン・センタード・ケアとは、「その人を中心とした」認知症介護の考え方です。
認知症の人との関わりで、介護者が戸惑ったり大変だと感じる理由には、同じことを何度も繰り返す・ついさっきのことを忘れてしまうといったことが挙げられますが、こういった言動は、認知症の症状からくるものだと理解して接していくしかありません。
その上で、その人自身が生活の主体となれるように支援していくのが、利用者を中心とした認知症介護といえます。
感情的な面を理解する
認知症になると、新しいことを記憶したり、段取りを立てて物事を進めていくといった能力は衰えますが、嬉しい・悲しい・寂しい・怒りなどといった、感情的な面での感受性や表現力などは、比較的保持されやすい能力といえます。
そのため、相手が自分を尊重しているのかそうでないのか、あの人は親切そう、この人は何か嫌な感じがする、などといった感覚はしっかりと持っています。
認知症を抱えることで生じる不安や混乱、戸惑う気持ちを想像し、共感的な姿勢で関わて行くことが大切なのではないでしょうか。
認知症の人と向き合う上で大切なこと
認知症の人と向き合う上では、その人が歩んできた歴史を含め、思いや気持ち、行動を理解し、その人に興味を持って寄り添う姿勢が大切です。
認知症の人は、何も分からないわけではなく、物事を分からないと決めつけられることや、納得していないのに無理やり何かを押し付けられることを拒絶します。
自分が認知症であるという認識がなく、その人が今抱いている感情は正直なものなので、嫌だ・自分を否定されたなどど感じれば、拒絶するのは当たり前ですよね。
言葉だけのコミュニケーションではなく、表情や態度、仕草なども含めたコミュニケーションを図り、安心して過ごしていける環境を作っていくが必要です。
実際に認知症ケアの現場で学んだこと
介護施設で働いていたとき、以前の仕事が新聞記者だった認知症の男性がいました。
その方は、朝になると「会社に遅れる」と話し、共有スペースにいると落ち着かず、「本社はどっちかな」と言ってエレベーターに向かうといった行動がみられました。
昔と今の区別がつかずに、記憶が混乱している状況ですが、きっと仕事を休みなくバリバリ働いてきたんだろうな、と想像できます。
周りの先輩介護士さんたちは、その方に対し、「会社は何時からなんですか?」「本社はあっちだと思いますよ」などと声をかけ、言動を否定することなく自然に接していました。
そうすると、その方は納得して「そうですか」と落ち着いた様子になるのです。
これは決して馬鹿にするように接しているわけではなく、その人の歴史を理解した上で、その人が今感じている思いを否定せず共感するという、認知症ケアに基づいた姿勢です。
認知症の人の状況を理解し、どう対応していくのか、どう関わっていくのか、しっかり考えて行動することが大切なんだと学びました。
まとめ
認知症ケアは、認知症の人の生きてきた歴史や思いに興味を持ち、共感的に関わることが大切です。
その人が、その人の生活の主体となって過ごせるように、認知症と認知症ケアの理念についてよく理解し、生活を支援していけるといいですね。